Thursday, November 5, 2020


(translation pending) 活動報告:学部時代の話と、コロナ禍の話

私は2008年まで、ブラジル北東部のセアラ州の首都であるフォルタレザ市に住んでいました。セアラ連邦大学の建築都市計画学部に在学していて、応用社会学系の研究室に所属していました。フォルタレザ市はブラジルの中で10番目の経済力(2016年GDP約185億ドル)、5番目の人口(約268万人)、州都として1番目の人口密度(約8,600人/km²)を有する大都市です。貧富の差が激しく、人口の4割以上が市の面積の1割に及ぶインフォーマル市街地(スラム街)に住んでいます。そして現在、フォルタレザ市では新型コロナウィルス感染症に伴う10万人当たりの死亡者数が130人を超えてしまい、感染症による死亡率が国内で最も高い都市となりました。市内の感染者情報は詳細な地域単位別でオープンデータ・地図情報として公開されています。それらの地図を見て、どれも過去に見たことがある別の地図と似ていることに気づき、とても驚きました。

私が学部時代に所属していた研究室はObservatory of the Metropolisesという、国内外16の都市の研究機関が参画する共同研究ネットワークと連携していました。当時、多種多様な分野の研究者と協力して、異なる態様を持つ調査データや知見を掛け合わせて総合的に考察するために必要とする、各種データの標準化に有効な指標づくりが課題でした。その過程で開発されたのが、フランスのE.Preteceille(社会学)とブラジルのL.C.Q. Ribeiro(都市計画学)によるSocio-Occupational Category Distribution Map(CAT マップ)という手法でした。地域の居住者の職業と従業上地位のトレンドに着目して、各種データの集計地域単位を分類化するメソッドです。様々な一次・二次データと組み合わせて、地図上で現場の社会空間的格差を分かりやすく可視化することにより、あらゆる社会問題の解決に知見を応用することを目指す研究に役立つと考えています。

その手法を用いて私も作成に関わったフォルタレザ市のCATマップと、現在フォルタレザ市が公開しているCOVID-19の感染拡大タイムラインマップを重ね合わせてみると、各地図の情報構造がととても似ているのです。具体的には、市内で最初に感染者が確認された地域は、CATマップ上で管理的・専門的・技術的職業従事者など、海外渡航が比較的に多い職業従事者がピンポイント的に集中する地域であったことが一目で分かるほど、位置情報がマッチングしていたのです。その次に感染が広がったのが、サービス職業従事者の分布値が高い地域でして、特に管理的・専門的・技術的職業従事者等の下で働く家政婦や家事代行者の生活圏に該当していました。そして最終的に、高密度なインフォーマル市街地にて感染拡大が急激に加速することとなりました。このような状況について、Observatory of the Metropolisesに参画するそれぞれの都市の研究機関も提言を出していて、各報告書を深読みしているところです。

パンデミックは、災害と同様に、加害事態と社会の脆弱性が重なり合って生じる社会現象であり、今後目指すべきポストコロナ社会、すなわち、レジリエントで持続可能な社会を検討する上では、社会的脆弱性が潜在する現場の状況を取り押さえることが不可欠です。上述の地図情報を見比べることにより、応用社会学の重要性を再認識しました。