Thursday, May 20, 2021


(translation pending) コラム:ビル内保育施設の火災安全について(日本防火技術者協会「ビル内保育施設の避難安全検討WG」発行冊子のご紹介)

 待機児童削減の社会的な要請が高まる中、最近では利用者の利便性の面から駅周辺部等の一般の中高層ビルの中に保育施設が併設されるケースが増える傾向にあります。保育施設は、歩行が困難な乳幼児を預ける施設であるため、火災安全上、高い安全性が要求される施設です。保育施設の設置に係る安全基準は、建築基準法や消防法のほかに、厚生労働省や国土交通省が定めていますが、これらの基準は保育施設を一般のビル内に設ける場合には十分な内容とはなっておらず、以下の通り火災安全について配慮が必要です。
  • 火災時に園児を上階から避難させる場合、他の施設からの一般避難者と同じ経路を使うとすると、園児の歩行速度や体の大きさの違いから、転倒や圧迫などの危険が予想される。
  • 限られた時間内に地上階へ避難させることは極めて困難であるため、火災からの危険を回避するためにビル内の安全な場所に一時的に待機せざるを得ない場合もある。
 このように、保育施設が併設された建物内で火災が発生した場合の安全確保は、保育施設の設計や管理者の安全管理にかかっている状況にあり、執筆者がメンバーである日本防火技術者協会・ビル内保育施設の避難安全検討WGでは、平成26年より保育施設設計者・管理者・保育士向けに「ビル内保育施設の火災安全確保のために」と題した手引きの作成に取り組んできました。冊子の主な内容は、ビル内に保育施設を設置する場合に関わってくる法的な規制のまとめ、防火上のポイント、待機スペースを活用した避難の考え方や火災安全のチェックリストとその活用解説です。

 火災時に最初に避難の支障となるのは煙です。避難経路が混雑する中、無理に避難しようとすると、園児が転倒したりして追従する集団の行動が滞り、煙に巻きこまれる危険性が高まるため、階段を使って⼀度に全員を避難させることは困難です。そのため、以下の通り建物内に設置する待機スペースを活用し、段階的に避難することが有効であると考えられます。
  • まずは待機スペースで安全を確保し、火災の状況や階段内の混雑状況を確認する。
  • 混雑解消後、煙に巻き込まれる危険性などがないことを確認の上、地上階まで避難する。
  • 煙に巻き込まれる危険性などがある場合、待機スペースで消防隊の救助を待つ。
 ここで言う待機スペースとは、耐火構造の壁で囲まれた防火区画、すなわち、煙や火炎を一定時間制御して避難を助けるための要件を満たす安全な空間です。保育士・園児全員を収容できる面積がある他、階段に近い場所にあるほど、消防による救助も容易になります。手引きではこのような待機スペースの設置の仕方について解説しています。


 待機児童削減への対応を主要な目標とし、保育施設の設置を強力に推進している自治体は少なくはないと思います。是非、当冊子(下記URL参照)をビル内保育施設の設計者・管理者・保育士の方々に周知して頂き、火災安全の一助になればと願っています。

冊 子:ビル内保育施設の火災安全確保のために
作 成:日本防火技術者協会・ビル内保育施設の避難安全検討WG
URL:http://www.jafpe.or.jp/pdf/hoikushisetsunokasaianzen.pdf